それでも生きるあなたへ

柿の木とたくさんの柿の実

辞めるために働くということ

5年後に退職するにあたり徹底して顧客情報の整理を行った。できるだけこまかい情報を、5年後に仕事を継いでくれる後輩のために残していった。辞めるための仕事を長期に渡り取り組むというのは人生初の経験だったので非常に勉強になった。それをもとに一つお話をさせていただくと、仕事柄企業の社長さんをたくさん見てきたが、社長こそその椅子に座った日に辞める日のことを考えるべきだ。一身を賭して事業を興すツワモノ達。彼らの多くは自身を不老不死と思っているタイプが多く、永遠に今のパフォーマンスが続く勢いで覇道を突き進んでいる。そう思い込み、気合いを入れておかないと事業なんてできないよと反論が来ることを承知の上で言うが、それが仇となり右腕を育成できない人が多い。利益追求と人材育成は両輪で回していかないとどちらがパンクしても会社は脱線するのである。いつか事業は承継せねばならない。しかし会社を任せられる人材がいない。なぜなら人を育ててこなかったからだ。多くの企業が今悩んでいるのは事業承継問題である。

途中で社長が倒れるケースだってある。ある日突然社長が急逝された会社とお付き合いがあったが、翌日には廃業のお知らせが飛んできた。後継者がいなかったからだ。二代続いた法人はあっという間になくなり、長年働いていた従業員たちは突然厳しい就職活動に挑まねばならなくなった。ほとんどが高齢のパートさんだった。

「自分がいついなくなっても良いように。」

そう考えながら仕事し、準備している社長がいる会社は永く続いていく。これは様々な会社と付き合いこの目で見た真実だ。あの社長もそこを考えてくれていれば、長年働いてくれた従業員を無職にし、居場所を奪い、高齢者再就職という重荷を背負わせることはなかっただろう。

社長、ただの一般社員・パートでしかない彼らはあなたの葬儀や会社整理までやってくれましたよ。あの世で再会したらしっかり感謝の気持ちを伝えてくださいね。

昔きつかったのが今もきついのはなぜ?

自分がいなくなった後のことを考え仕事する。いいなぁ、こんな至れり尽くせりなかったぞ?俺の時は資料がダイイングメッセージだったぞと思いながらより詳しく、より鮮明な記録を残していく。「俺の時代はきつかったからお前も頑張れ!」と言う人がいるが100点満点のナンセンスだ。豆腐の角に頭ぶつけて豆乳の海を泳げばいい。自分がきつかったなら後輩には楽してほしいと考えるのが普通でしょうが。あんたの時代がきつくて後輩もきついのならお前が改善できてないんだよナンセンスパイセン。仕事環境が進歩してないということでしょうが。つまりそれは先輩であり管理職たるあんたが仕事してなかったということ。自分の仕事のできなさを古き良き時代の回想みたいに言うな。あと「あいつ使えないよな。」と言う管理職もよくいるが、"管理職"という字を見てみろよ。おめぇが教育・管理できてねぇからその人は成長できてねぇんだよ。「あいつ使えないよな」じゃなく「あいつを使えなくしたままの俺、もっと使えないよな。だって管理職だもの。だめを」が正解だバカ野郎。なんのために管理職としての手当てをもらってるのか今一度考えるべきだし、ほんとそういう輩は豆腐の角で頭ぶつけて豆乳の海を泳いで大豆の自転車でトライアスロンに挑むべき。めちゃくちゃ健康になるぞ身も心も腸内環境も。

あんなに溢れていた書類も今はスッキリして、データと紙の紐づけもバッチリ。きっとここは悩むだろうというところは注釈を挿入して情報迷子が正解に辿り着きやすいよう導線を張りまくった。これで遭難することはないだろう。安心して入社しておいでかわいい後輩よ。あともう少し、キミのために面倒な客も整理しておくからね。

数字に表れないマイナスを見つけるのは人間の仕事

営業という仕事の良いところは自分でお客さんを選べることである。嫌いな人を客にする必要はない。特に保険屋という商売は常に保険金詐欺との戦いでもある。胡散臭いと感じた訪問先からは早々に撤退し身を護らねばならない。その嗅覚も大事な商売道具の一つなのだ。しかしながら今のお客さんは全て役員さんから引き継いだ顧客。中には危険人物もいた。北の王・南の王は勿論のこと、他にもお付き合いするのがマイナスな人もいた。そういう人を切り、良客をお世話できる時間を増やすのが保険マンの仕事である。世の中付き合うだけでマイナスの人もいる。これは人生にも応用できる話だ。まだ見ぬ後輩のため、粛々と彼らとお別れしていった。自ら切っていると会社にバレぬよう、静かにトラブルなくいらない客とだけ別れていく。これ、営業マンの腕の見せどころ。客を増やすだけが我々の技術ではない。当然客が減れば社長から小言を言われるが大丈夫。えへへスイマセンとか言ってたけどそれ、御社のためにやっていたんですよ。その証拠にほら、あのお客さん別の代理店で保険金詐欺やってますよ社長。他にもあれもこれも。言ってないからあなたは知らないけどね。あなたがもし何事に対しても素直に「ありがとう」と言える人であったなら話していただろうし、俺も「客を落とす仕事できない奴」のレッテルを貼られずに済んだだろう。でもいいの。花より実をとり黒子として不要因子を摘んでいった俺の仕事は今の御社の利益を支えているから。それが俺の「仕事」だぜ。

仕事とは優しさのバトンである、べき

自分が退職する日のために仕事する。一度騙されたと思ってやってみてほしい。仕事の精度と価値が上がるから。経験なき後進のためにしゃがんで目線を合わせてやると今まで見えなかったものがいろいろ見えてくるものだ。そしてその気づきをもとに手を入れ強化された仕事が他でもないあなたを助けてくれる。仕事とは慣れた自分のために端折ってやるものではなく、知らない誰かのために詳しくわかりやすくするものだ。

人は代わる。会社は残る。

あなたの仕事も先輩から教わり、後輩に伝えていくもの。そこで働く人々がこの先より良い環境で働けるかどうかは、今いるあなたの仕事に懸かっている。