進撃のおばあちゃん
飲み友達を求め出会い系サイトをやってみたはいいがおかしな輩もたくさんいて、ポイントを使わせよう使わせようとする業者や、「ホベツイチシャナイゼロゴーアブラカラメマシマシ」などと謎の呪文を唱える者、誰とも会わず痛い長文のポエムをアップし続けいいねをもらうことで承認欲求を満たしている出会い系サイトの女王のような者など様々な人種がいた。そんな状況なのでなかなか普通の人には会えず苦戦していたが、ある日「地元一緒ですね」と女性からメールをいただいた。良ければ直接連絡とりませんか?と。これは嬉しい。サイトを介さず連絡できれば貴重なポイントを浪費せずに済む。是非にとLINEを交換し数回やりとりをする内にご飯でも行きましょうということになった。ものすごく久しぶりの会食だ。いきなり飲みに行くのは怖いのでまずはランチから、とのこと。そりゃそうでしょう全然大丈夫。こちらも飲み友が欲しいだけなのでまずは信頼関係を築いてからで結構です。
なぜこうなったのか?
「ご飯でも行きましょう」この言葉をこれほど恨んだことはない。なぜなら今目の前にいるのは60歳オーバーのおばあちゃんだからだ。おばあちゃんはなぜか青のドレスを着ていた。「アタシ若い頃からお水しかしたことなくってぇ~」と言っている。「ごめんね今日はエッチできないけどぉ~」と言っている。おばあちゃんのくせに若者ぶった喋り方がイラッとする上に、60代の人から言われる「エッチできないけどごめんね」は屈辱度がメーターを振り切って天まで届くレベルだった。悪夢だ。普通の飲み友達を求めていただけなので女性の年齢をよく見ずサイトを利用していた自分もいけないのだけど、だとしてももっと若いの来るだろ普通。還暦のキャバ嬢はきついて。今日ランチでよかった。いきなり飲みに行くのが怖いのはこっちの方だわ。でも会ってしまったものは仕方ないので、せっかくと思いお話を伺ってみると「ネットワークビジネス」「インセンティヴ」「アフィリエイト」などのいかがわしい単語しか出てこない。うわぁ。「あなたも一緒に夢を掴みましょう☆」という例のやばい人テンプレートが出たところでこのままでは時間と金の無駄だということで話題を変え、おばあちゃんが育った頃の地元の話を聞かせてもらった。あの頃はあの建物は無かったとかあの辺にパチンコ屋さんがあったとかなんちゃない話だが夢を掴む話よりは全然マシで楽しく過ごせた。その時間をどう過ごすかは自分の舵取りにかかっていると思うし、せっかく人と会うなら有意義な時間にしたいじゃない?そんな性格で良かったなぁと思ったところで夢を掴むグループLINEとやらに強制加入させられ退店。お会計を済ますとおばあちゃんは「ごちそうになっていいのぉ~?ありがとぉ~」とゴキゲンだった。若者ぶった喋り方がイラッとしたがさすが昔の人だけあってありがとうはちゃんと言えるらしい。うん、なら良し。
蜂の巣をつついたようなおばあちゃん
数日後、仕事中にスマホを見たらLINEの通知件数がすごいことになっていた。ひょっとして誰かの身に何かあったのかと思い慌てて開くと夢を掴むグループLINEの新着件数がシュポンッ!シュポンシュポンッ!シュシュシュシュシュポンッ!とエラいことになっている。どうやら主宰のおばあちゃんが地雷を踏んだらしくスパムが止まらなくなったようだ。トークルームに立て続けにおばあちゃんの名前で投稿される詐欺サイトの広告とリンク。「あわわわわ!投稿されたリンクは踏まないでください!」取り乱すおばあちゃん。「うわ!なんだこれ!」混乱するメンバー。「リンクは踏まないでください」「なにこれ何が起きてるの!?」シュポンシュポンシュシュシュシュシュポンッ!「リンクは踏まないでください」「ちょっと〇〇さん止めてよこれ!」シュシュシュシュシュポンッ!「リンクは踏まないでください」「△△さんが退室しました」シュシュシュポンッ!「〇〇さん困るよ仕事中なんだけど!」シュシュシュシュシュ「リンクは踏まないでください」「××さんが退室しました」「□□さんが退室しました」「☆☆さんが退室しました」シュシュシュシュシュシュシュシュシュ「リンクは踏まないでください」「リンクは踏まないでください」「リンクは踏まないでください」
阿鼻叫喚のグループLINEから20人ほどいたメンバーが全ていなくなったのを確認し、「さようなら。お元気で」と胸に十字を切りそっとおばあちゃんをブロックした。
おばあちゃんの向こう側
初手おばあちゃん。
出会い系サイトの指し手があまりに斬新だったため心が折れるのを通り越してむしろガッツが湧いてきた。三千円払っておばあちゃんと会って終われるか。やってやるよ次こそ普通の一般人と出会ってやんよと慎重に吟味を重ね「おなかすいたぁ~ごはん行きたい!」とリアルタイムに投稿している女性にメール。奢ってもらう気満々のその姿勢にイラッとしたが飲み友を求めている俺には食事から入れるこの女性は丁度良いだろう。すぐに返事が来て会うことに。ちょうど晩御飯の時間だし、焼肉でも連れてってやるか。
一時間後、私は生活保護を受けている飢餓状態の40代女性と会っていた。