それでも生きるあなたへ

木の上で子猿を抱く母猿のモニュメント

あの日作ったあなたのフォルダを
僕はまだ知らない

あたしが作ったフォルダはあたしのパソコンの中にあるだろうし、あなたが作ったフォルダはあなたのパソコンの中にあるだろう。当たり前のことだ。しかし難しいのは「あたしが作ったフォルダはあたしのパソコンの中のどこにあるかあなたは知っていますか?」という今回のご質問。なかなか常軌を逸している。聞けば授業で使う練習用フォルダが一式見当たらないと。「いや、あなたが作ったフォルダはあたしは知りません…」と、「あたしは」が「あたしゃ」になるテンションでお答えしたがそれだと目の前を手ぶらで富士の樹海に突入しようとする遭難者を見捨てるようなものなのでお姉さまと一緒にフォルダ捜索を行った。デスクトップを見るとフォルダやファイルだらけ。似たようなタイトルのものもチラホラある。これは間違いない、役員さんや小山先輩と同じデスクトップ散乱族だ。そういえば小山先輩もよく自分のキャビネをガサガサやってると思ったらピタッ!と手を止めクルッ!とこちらを見、「私の資料知りませんか?」と言っていた。知るわけないだろうがと。今思えばあれはどのような精神状態だったのだろうか?常に施錠している個人用キャビネットの中にある資料がどこにあるかなんて他人が知っているはずないのにそれでもクルッ!とこちらを見て「ねぇ、私の契約書がないんですけど?」と笑顔で言っていた小山先輩。ひょっとしたらワンチャン誰かが知っているかも…という数学者が「それはゼロとして扱って良い」と断言するくらいの薄い確率に賭けて「いっけぇぇ~~!!」とシュートを放ってきてたのだろうか。謎だ。今度会ったら聞いてみよう。

コピーしてヴェッタリ貼り付けるんよ

最初はここをこうしてああしてこれを開いて閉じてとお姉さまに指示しながら捜索していた。俺が操作して乱暴に解決するより本人が手を動かし理解した方が今後のためになるからである。が、あまりに操作スピードが遅く「ショートカットキーとは?」というワードでWikipediaを引きかねない勢いだったので選手交代した。コピーもカットも貼り付けも全て右クリックから恐る恐るという蟻が這う速度でこれでは日が暮れてしまう。ショートカットキーの使い方を教えつつひとつひとつフォルダを開いてお姉さまにコレですか?じゃあコレですか?と聞きながらお目当ての教材がどこにあるか捜索。

「あった!ここにもあった!あれ?ここにもある!」

どこに保存されるのか理解しないまま毎回「よぅわからんけど保存しま~す!うなれエンターキー!」とスパーンやってたんでしょ?想定内です。増殖したフォルダを削除しデスクトップを整理。

「今度からフォルダはちゃんと仕分けしドキュメントの中に管理してくださいね。デスクトップは作業台なのでいらないものは置かないこと。」

正しいデータ整理を教え一件落着。自分の作業に戻る。これはむしろ訓練校から臨時講師としてお手当てをもらって良いのではないだろうか?

ちなみに小山先輩も昔ショートカットキーを一切知らなかったので教えてあげた。しかし何度わかりやすく教えても「アルファベットだから覚えられない。イメージが掴みにくい。ほら私日本人ですから。」とわけのわからないことを言ってすぐ忘れてしまうので最終的に、

俺「Ctrl+Cでコピーです。コピーのCだからわかりやすいですね?大丈夫ですね?貼り付けはCtrl+Vです。覚え方は"ヴェッタリ"です。"ヴェッッッタリ"と貼り付けるんです。イメージしながら言ってみましょうハイ!」

小山先輩「ヴェッタリ!」

俺「もっと貼り付いてる感出して!ハイ!」

小山先輩「ヴェッッタリ!」

俺「もっと!!Vの持つ独特な下唇への圧力感じながら!!」

小山先輩「ヴェッッッッタリ!!」

俺「貼り付けはCtrlキープラス!?」

小山先輩「ヴェッッッッタリのV!!!」

俺「切り取りは!!?」

小山先輩「バッサリX字に切り取るX!!!」

俺「よくできました!免許皆伝です!!」

このような手法で彼の記憶にショートカットキーを定着させることに成功した。もちろん、その様子を隣で見ていた女性社員がこいつら頭大丈夫かと哀れんでいたことは言うまでもない。

お前は…神にでもなるつもりかい?

お姉さまのフォルダ捜索も無事完了し「いいですか?デスクトップの乱れは心の乱れです。これからはしっかり整理整頓していきましょう。」と釘を刺しておいた。ショートカットキーの使い方も伝授したしこれで大丈夫だろう。こうして困っている人にいろんなことを教えられるのもOfficeを教えてくれた前回の訓練校、そして資料整理スキルが必須だった保険業のおかげと手を合わせた。人生に無駄なものはない。

今あなたが見ているこのページは「Webページ」、その集合体である『それでも生きるあなたへ』全体を「Webサイト」という。よく「ホームページ」と言うがそれは誤りで、ホームページとはGoogleやMicrosoftトップの「何をお探しですか?」的なブラウザ立ち上げ画面のことを指す。だから「訓練校で勉強してオラ……ホームページを作って有名になるだ!」と言うのは「訓練校で勉強してGoogleやMicrosoft社のブラウザに負けない高いシェアとセキュリティを誇るホームページを作成し両社のCEOより有名になる」と発言しているのと同じである。世の中なんでも否定するのはよくないので日本中探せばそのような、"打倒Google""打倒Microsoft""くたばれスティーブ・ジョブズ"を掲げ世界の覇権を握ろうとしている職業訓練校がどこかにあるかもしれない。ホームページを作成して有名になりたい人は今すぐ職場に退職願いを叩きつけてその訓練校に馳せ参じるべきである。

「ホームページ」という言葉ひとつ取ってみてもそんな調子なのでコンピューターの世界は言葉のイメージと実際の定義が頭の中に定着するまで時間が掛かる。さらにプログラミングの場合「それとそれをこうしたら本来こうなるんだけどあれがあるからその場合ダメです。」みたいな突然のマイルール発動もあるので余計に「あーもうめんどくせぇ!!!」とパソコンを破壊し全てを投げ出して南国の海に泳ぎに行きたくなる。HTMLという言語で建てたWebサイトという建物の外壁を装飾するのがCSSという言語なのだが、そこで現場監督が「おおぃその壁は赤く塗れ!」と出す指示のことをプロパティという。このプロパティを自分の思い通りに使いこなすのが本当に大変で、現場監督が「そうはいかん!」「おっとそうは問屋がおろさん!」と反抗ばかりしてくるから思い通りに色も塗れないし壁材の質感も決められない。一つのプロパティが思い通りに動くようになるまで毎日帰宅後深夜まで格闘していた。きっと何か、コンピューターにこちらの要求を理解させる話し方というかコツみたいなものを自分が掴めていないんだろう。言葉が通じていない印象を受ける。じゃないと味方のはずの現場監督があそこまでかたくなにストライキに入ったりしない。

まずはたくさん作ってたくさん調べて肌感覚で慣れていくことがプログラミングを勉強する上で最も重要だと思う。「プログラミング言語」というだけあって英語を習うような"体で覚える"精神で反復していけばいつか見えなかったものが見え、聞こえなかったものが聞こえるようになるはず。
※スピリチュアルな意味ではありません。

暗雲立ち込める次なる試練

ひとつできたら数時間、またひとつできたら数時間と、初心者はここで躓くだろうとプログラミングの神が用意した壁にまんまと全てブチ当たりながらも人生が懸かっている四十代の冗談が通じないタイプの表情でそれらを粉砕し少しずつ経験値を積んだ。まだまだ洗練されたデザインは施工できないが一通り、雨漏りするアバラ屋くらいは建てられるようになった。これはなかなかすごいことでまだ教室全体のレベルとしては「家を建てる材料を集めましょう」程度のものだったのでだいぶ先を行っているといえるし、お姉さまや他の人にいろいろ教えながらも遅れをとっていないなら歓迎すべき状況だ。人がスキルアップする上で必要なのは『インプットとアウトプット』。得た知識を初心者に教え、理解してもらえて初めてその知識は価値が出るのである。声に出して反復することで自分にとっても知識の再理解・定着がはかられ良いことしかない。だから得た知識は出し惜しみせず必要としている人にどんどんシェアするべき。それが他でもない自分のためになる。まさに『情けは人のためならず』。質問してくれる人に感謝。

そんなある日、グループワークをやりますと先生が宣言。こんなに盛り上がっていない教室でグループワークなんて正気ですかと思ったが3つに班を分けてやるとのこと。お題は「仮想店舗のWebサイトを制作するためのグループワーク」。嫌な予感しかしない。なぜなら俺の班はメンバーがなかなかの粒揃いだったからだ。しかしやる前から色眼鏡で他人様を見るのはよくないと考えを改めフラットな状態でグループワークに臨むことにした。みんな良い歳した大人だし充分な経験を積んだ紳士淑女だ。勉強になることも多いだろう。助け合いと切磋琢磨、最初想像したこの教室で起きる素晴らしい人間ドラマがいよいよこれから始まるのだ。ありがとう先生、貴重なグループワークという試練を頼りになる仲間たちと共に乗り越えていきます!

そう、前向きに思っていた時期が私にもありました。